創what?

詐欺カルトからの覚醒メソッドを主軸に、世の中に蔓延る「なんとなく受け入れているもの」に風穴を開けましょう。こちらは、膨大な量の刷り込みにより凝り固まった思考を解きほぐし、自分らしさを解放し自由に生きる為のブログ。

カルトスカウター・12

 一山乗り越えて安心した二人だったが、またあの問題が勃発した。性別論争の再燃である。
 
「絶対女の子だから」
「いや、まだわかんねえから」

 実に下らない。わかってる。だからこそ。わからないからこそ互いに強気。まるで宗門問題だ。

「何の根拠があって女の子っていうわけ?」
「あたしのお腹にいるんだよ。わかるんだよ」
「そんなバカな」

 しかし、こういった話は心に余裕があるから言い合える問題だということも学んだ。
 私は逆に妻のストレス解消になるよう努めた。私は凄いのだ、そう思って産んだ子供が凄くならない訳がない。根拠はないがきっとそうさ。楽しみだ。とにかく無事に産まれてくれさえすれば、私は性別なんてどちらでも良かった。

 あれから何度かエコー検査をしたが、背中向きだったり、脚を閉じていた為、健康である事以外の情報が掴めずにいた。

「いやしかし、この子、相当な恥ずかしがり屋だな」
「そうだねぇ。だから女の子」
「おうおう、なんでそうなんのよ。俺に似てんだよきっと。男の子だな」
あ?このやろう、服もうピンクしか買わねえからな」
「林家かよ! 色々買えよ。桃色とかさ」
「同じじゃん! バカ」

 義母がひたすら笑い転げている。毎日が楽しい。幸せって、毎日楽しいことなんじゃないかって思った。
 絶対的幸福境涯、なんてよくわからない。あるのか、ないのか。でもさ、今はこう思うんだよ。色んな思いを積み重ねたその先にしか、それは見えてこないのではないだろうかとね。
 だったら笑って行こうじゃねえか。

 この頃のもっぱらの楽しみといえば子供の名前を考えることだった。

 名前ってのは一生もんだからな。
 色んな思いを凝縮したものがいいな。どんなものにしてやろうか。
 中国では、願いとは逆の名前を付ける風習がある土地があると聞いた。「醜醜(しゅうしゅう)」と名付けられた子はやがて絶世の美女になったとか。おっかねえな。
 現代では間違いなく性格歪むに決まってるよな。そんな風習。

──まあ、もう名前は決まっていたんだがね。結婚前から、女の子の名前が。

「まだ名前考えてんのか」
「なにこの。考えるくらい良いじゃねえか」

 とびきりの笑顔。卑怯過ぎる。もう何も言うまい。念のため、というのも変な話だが、男の子だった時の名前を勝手に考えることにした。

 私生活に特に問題は無かった。

──問題は、仕事の方だった。
 協会にも入っていないような小さな他社が次々と低価格での受注をし始めたのだ。業界全体の事など頭に無いような金額だ。かなりまずい、負のスパイラル。
 業績が悪化を辿る中、給与の大幅カットが実施された。
 悪手だ。好転しない限り、その手段は続くのだろう。
 そして、社内でも私一人が頑張ったところで、焼け石に水だった。
 コンフォートゾーンという言葉がある。居心地の良い場所。ここから人は出たがらない。このあまりにふざけた、ぬるま湯のような現状を受け入れてしまった人間に囲まれた私は、社内で完全に孤立してしまった。自分達のコンフォートゾーンを維持するため、現状を打破しようとする者の足を引っ張る連中だらけになったのだ。

「まあ、何とかなるでしょ。一時的なもんでしょ」
「他社もバカですよね。そんな安い単価でしか仕事取れないんだから」

 幹部連中のその台詞は、ポジティブな人間にだけ許された言葉だ。楽観主義は、馬鹿とは違う。会社のことを考え、部下のことを考え、自分のことを考え足掻く人間にだけに許された言葉だ。
 他社のやり口はきっと、隊員を思っての措置だ。会社の利益じゃない。将来的な展望あっての措置だ。こいつらは、なんでそれが解らないんだ。出し抜かれんぞ。

 こんな安い給与を受け入れるってことは、自分の仕事に誇りを持てない奴だけだ。冗談じゃない。命を守るなんて、口ばかりだ。こんな対価でやれるか。人が守れるか。

「何とかなる、じゃないですよ。何とかする、に切り替えないと」
「まあまあ、そんな意気っても仕方ねえよ。なるようにしかならねえんだから」
「そうっすよ。ライアーさんらしくねえっす」

 幹部連中は独身の独り暮らしがほとんどだ。私は、お前等とは違うんだという気持ちが沸騰してしまった。

「てめえ等……何ヵ月、いや、何年我慢出来るってんだよ! こんな現状! 俺達はニンジンぶら下げられた馬じゃねえんだぞ!」

 とにかく、動き回った。

──「ライアーさん、だっけ。困るんだよねぇ、暇な時にだけ挨拶来られても」
「おっしゃる通りです。ですが、どんな小さな仕事でも、短時間でも構いません。他社より価格も下げます。どうかよろしくお願いします」

 なりふり構っていられなかった。
 でも、自業自得という言葉は実在する。こんなところで、それは還ってくる。

「ふん。今更……あんた、覚えてっかなぁ。俺は昔、○○って会社でやってたもんだけど。ははっ、覚えてねえか。ぺーぺーだったかんなぁ。あんたさ、忙しい時期に俺の足元見たよなぁ。とても払えねえような単価で見積り余越しやがったよなぁ。忘れたとは言わせねえぞ」

 今までの高慢で強気なやり方が、ここに来て完全に裏目に出てしまった。
 客からは散々罵倒され、心折られ、ハンドルすら握る気力も奪われたところに、部下からの電話だ。

「ライアーさん、明日も仕事無いんすか?」
「すみません。明日も、お休みで」
「こっちは生活掛かってるんすよ! あんた等とは違うんだよ! お願いしますよ! 明後日仕事無かったら、俺もう辞めますからね!」
「……はい。すみません……明日必ず、連絡します」

 携帯のコールが、鳴りやまない。

 生活掛かってるのは、俺だけじゃない。情けねえ。こんな時にでも、私は自分の生活のことしか考えられないなんて。管理職、失格だ──

 人材不足で困ってる現在は、私からすれば幸せである。仕事がなくて困っているよりも、遥かに。

 翌日、名刺を通常の三倍注文した。
 そして、再び同じ客に、罵倒されに行った。足掻くしかねえ。

続く